S_への手紙

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S_への手紙

 私は怒っています。  いいえ、怒るなんて言葉では生ぬるい、激怒です。大激怒です。  本当はお前に面と向かって罵倒してやるべきですが、お前は私とまともに顔を合わそうとしない卑怯者です。仕方がないので手紙で伝えます。お前がこの手紙を読むであろうことはわかっています。  思えば私は愚かでした。あやうくお前にお礼の手紙を書くところでした。  でも、天網恢恢疎にして漏らさず。お前の悪事はあっさり露見しました。私だけでなく他の女にも貢ぎ物をしていたのですね。よりにもよって私の親友に。どうせ、気付かれないと高を括っていたのでしょう。  きっかけは偶然でした。裕乃と話していた時、ふと、貢ぎ物の話になったのです。そして、貢ぎ主としてお前の名前が出て来た時の私の驚きがわかりますか?   最初は信じられませんでした。でも、裕乃を問い詰めてもお前で間違いないと言われました。しかも、定期的に貢ぎ物を受けていると。そして貢ぎ物の時期も私とぴったり重なっていました。  私は目の前が真っ暗になりました。さらに、もしかしてと思って理沙に聞いてみると、彼女もお前から貢ぎ物を受けていると言うではないですか。驚きの後に、心の奥底からふつふつと怒りが沸き起こってきて、私を真っ赤に染め上げました。  お前が貢ぎ物の見返りに何を狙っていたかはわかりません。どうせ乙女の大切なものを盗んで行こうとでもしていたのでしょう。けれどもそれは永久にお前のものにはなりません。おあいにく様です。  考えてみれば、そもそもお前の貢ぎ物の方法が不審なものでした。家族の誰かがお前に協力しているのでないかと思ったこともありましたが、私の大切な家族がお前なんかに加担するはずがありません。  だとすれば、お前は他人の住居への不法侵入を犯していたのです。重罪です。侵入の際、無防備で無警戒だったはずの私に手を下さなかったこともお前の悪事を微塵も軽くするものではありません。  とにかく、お前の二股、三股が露見した以上、お前との関係を根本から改めなければなりません。私は決めました。お前からの貢ぎ物なんて、受け取るのを、もうやめてやるのです!   だから、今夜は私の枕元に靴下は置きません。この手紙を読んだら、持って来た貢ぎ物をそのまま持って、すごすごと自分の家に帰りなさい。  ふん! ざ ま あ み ろです。                  かしこ
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