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ぎりぎりと骨の軋む音がした。
きつく絞り上げる手の中で、早苗の首に流れる脈は抵抗するように強く脈打ち、やがて弱いものに変わっていく。
苦しげに歪む顔は尚、俺を見つめていた。
なんだその顔は
まだ
愛していると言うのか
「もうこんな生活、やめてやる……!
そうだよ……俺はお前を騙してたんだよ!」
地味で目立たない早苗に近づいたのは、こういう女こそ金を溜め込んでいるからで。
男など付き合った事すらない。
優しくすれば簡単に信用する。
初めこそ震えていたが、女の悦びを教えてやるとすぐに堕ちた。
それからは少しずつ言い訳を変えて、欲しいだけ金を出させればいいだけだ。
はじめは30万。
次は60。
徐々に上げた金額は、総額でいくらになるのか。
他の金づるも居るから、正確には分からない。
汗がにじむ早苗の首はゴムの様な色に変わり、俺の指がズブズブと何処までも入るような錯覚まで起こす。
結婚をほのめかし、訪れぬ未来の夢を見させて。
それだけでも十分すぎるボランティアだ。
もう消え時だった。
それなのに
早苗の家で夕飯を食ってから、急激に眠くなり、目覚めたら早苗のアパートの排水管と俺の足が、長い鎖で繋がれていた。
訳が分からず闇雲に鎖を外そうとしていると、外から早苗が帰ってきた。
「ただいま。コレ、貰ってきたよ」
その手には婚姻届が握られていた。
笑顔の早苗が怖い。
拘束という行為に、彼女の異常性を感じた。
「こんな事しなくても、ちゃんと順を追って式の日取りを決めようよ。
まさか、俺の事疑ってるのか?」
本当はボコボコに殴り倒してやりたいが、彼女の逆鱗に触れぬよう、やさしく諭すように早苗に問いかける。
早苗は不思議そうに俺の眼の奥を覗き込んできた。
「信じてたけど……あなた、浮気してるでしょ?」
その言葉に、恋人の麻里の顔が頭に浮かぶ。
しかし麻里の存在はばれていないはずだ。そうなるとこいつが言うのは他の金づるの事か。
「浮気なんて……そんなに俺、信用ないんだ?
……あ! 多分、早苗が言うのって、会社の部下の事じゃないかな? この間商談の帰りに、2人でコーヒーを飲んだけど、そこを見た?」
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