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修平は結婚と同時に会社勤めをしていたが、過去にバンドをやっていた頃はインディーズ界のカリスマと呼ばれていた男だった。 夜の街で狂犬と呼ばれた修平。だが哀しみの中で喘ぐカリスマは夜の街の人気者でもあった。 どこの店のホストにも負けない、修平のルックスに夢中になる女がいるのは当然だが、修平は男達にも人気があった。 呆れた事に修平は、自分から喧嘩を吹っ掛けた相手が気に入ると、打ち負かした相手を誘って朝まで酒を飲み交わすのである。それは修平が根本的には陽な気質故の行動だった。 『こんな奴が一人ぐらいは居た方が、世の中は面白い』 人々にそう思わせる魅力が、修平の持つ柔らかなカリスマ性だった。 そんな修平ではあったが、修平の中にある悲しみは深刻な程に根強いものだった。 近所の海岸で酒を飲んでいた修平が、泥酔して入水自殺しようとしたのである。 日中だった事もあり、修平は釣り人によって助けられたが、病室で目を覚ました修平は一瞬、自分はもう死んだものと錯覚をした。 目の前に真っ赤な彼岸花が一本だけ花瓶に活けてあり、目を開けた瞬間にその花が目に付いた為だった。
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