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辺りを見渡すと、ベッドの横に泣き顔のひな乃が立っていた。 朧気ながら自分が入水自殺をしようとした自覚がある修平は、ひな乃の涙に締め付けられるような胸の痛みと罪悪感を感じた。 「……ゴメン」 修平がポツリと言うと、ひな乃が泣きながら首を横に振った。 「悪いのは死んじまった晴美の方さ。娘の責任は親の責任だよ。……許しておくれ」 晴美の死は不慮の事故に近いものであり、決して晴美が悪いワケでは無い。 そもそも人の死に、善し悪しを関連付ける事に意味が無い。尊重すべきは死者の無念と尊厳。遺族の悲しみなのだ。 二人の間に、気まずい沈黙の時が流れた。 「ひな乃さん。何で彼岸花なんだ?」 沈黙に堪えかねた修平が尋ねた。 「ここ来る途中に咲いていたからね……」 修平としては、何で病室に彼岸花を飾るのかを尋ねたのだが、答えになっていなかった。 「アタシはこの花が好きなのさ」 彼岸花を見つめながら静かな口調で言って、更に続けた。
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