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花屋とは言え、彼岸花は商売とはあまり関係のない植物である。修平がひな乃の知識に関心していると、ひな乃が真っ直ぐな視線で修平を見つめた。
「彼岸花は曼珠沙華とも言うだろ?曼珠沙華の意味を知ってるかい?」
修平が首を傾げて横に振った。
「サンスクリット語で、天界に咲く紅い花を意味して、良い事が起こる前兆らしいよ。
シュウ………
焦らなくても、人はいつか皆死ぬんだ。
それが運命で天寿と言うものだよ。
生きてる間は、しっかりと生きなさい。
……あんたが良ければだけど、店を手伝ってみないかい?」
ひな乃の言葉が胸に突き刺さり、修平は返事をその場で即答する事が出来なかった。
家に帰った修平が深夜に店を覗いたのは、気紛れに近いものだった。
静寂に包まれた店内。
ゆったりとした気持ちで店内の花を見渡していると、不思議な感覚を感じた。
( ……誰かが自分を見ている! )
更に辺りを見渡した修平の口元に笑みが浮かんだ。
店中の花が自分に向かって微笑んでいるように感じたのである。
翌日、修平は髪の毛を真っ赤に染めて来ると、ひな乃に花屋になる事を告げた。
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