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午前十時。
川本と刑事の手伝いがあったお陰で、予定よりも早く会場の花を活け終わった修平は、二人に缶コーヒーを手渡した。
「ここはこれで終わりですか?」
周囲を見渡して満足げに川本が尋ねた。
「自分は花なんてよく見たことなかったけど、凄いですね……なんだか花が輝いて見える。オヤジもきっと喜んでくれますよ!」
胡蝶蘭やカトレア、シンビジュームなどの蘭をふんだんに使った豪華絢爛な祭壇だったが、修平としては納得のいく物ではない。
だが、ここはこれで良い。
そう修平は自分を納得させていた。
「川本、花は見てくれる人に笑いかけてくれる。花が輝いて見えるのは、花がお前に笑いかけているんだ」
修平曰く、花をじっと見つめていると、花の色彩が色濃く感じて輝いて見える瞬間がある。それを修平は花が笑うと表現していた。
「見事なもんだな……しかし、警官を何だと思っているんだ」
警官と言う職務を外れて、思わず手伝わされてしまった刑事が呆れたように呟いた。
人を惹き付けてしまう修平の人徳と言ったところだが、修平に悪びれた素振りはない。
「困った市民を助けるのが警官の仕事だろ?」
「呆れた奴だ。 そのナイフ、銃刀法違反に引っ掛かるぞ」
「仕事用だ。勘弁してくれよ」
「俺は斉藤だ。俺がそのナイフを認めてやるから、もしも職質されたら俺の名前を使え」
斉藤の鋭い目付きが柔和な笑顔に変わった。
「楽しかったが、人目に付くから俺はもう手伝わないぞ」
「後は商店街の皆に手伝って貰うから大丈夫だ」
修平が笑顔で答えた。
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