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「川本、次は遺族用の控室だ」 そう言うと修平は川本を連れて大ホールを出た。手伝わないと言いながら斉藤が付いて来るのは、斉藤の刑事としての仕事だった。 控室に着くと、既に十人程の男達でごった返しており、二十個程のプランターに植えられた真っ赤な彼岸花が持ち込まれていた。 男達は商店街で精肉店や八百屋、ケーキ屋と言った商売をしている者達で、修平の頼みで今が時期の彼岸花を川の土手から持って来たのである。 プランターに植えてあるのは、式が済んだら土手に戻す為に根こそぎ持って来たからだった。 「みんな、ありがとう!」 泥だらけの男達に修平が頭を下げた。 修平は白岩を、白岩が愛した彼岸花で飾ってやりたかったのだ。 とは言え、彼岸花と言えど祭壇を赤い花で覆い尽くせば、批判が出るのは目に見えている。 死者に対する法用は、半分は死者の為にあり、もう半分は残された遺族の為にあるのだから、故人の好みにだけ執着出来ないのである。 喪主を勤める椎名は、白岩と養子縁組がしてあり白岩組を継ぐ事になる。 椎名の顔を潰す訳にはいかなかった。 松福寺を飾る花は会館に持ち込まれた篭花を移動する事になるので、白岩を彼岸花で飾ってやれるのは、通夜が終わった後で白岩が遺族と共に一夜を過ごす、この控室だけだったのである。
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