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花屋と暴力団組織の若頭。
素人でありながら椎名に臆する事の無い修平を見て、川本は内心ではビビっていた。
川本は元はキックボクサーだが、修平のローキックが見えなかったのである。
単なる偶然かもしれないが、川本が勝てる相手ではないことは確実だった。
だが、駆け出しとは言え、川本は組織の構成員である。
( 殺るしかねえ!)
己の面子の為の決心を固めて立ち上がる川本に椎名が耳打ちした。
「止めとけ! お前だって『狂犬』の話しを聞いた事があるだろう?」
川本が身を強ばらせた。
「……狂犬って、あの狂犬ですか?」
川本が組に入ったのは半年前の事であるが、一年以上前に素人の男が夜の繁華街でヤクザ者や不良相手に片っ端から喧嘩を吹っ掛けてはぶちのめしていた。と言う話しを聞いた事がある。
男は『狂犬』と呼ばれ、いくつかのチームを壊滅させた上に、ヤクザの事務所に殴り込みをかけたと言う伝説級の逸話が残されていた。
「たった一人で橘興業にカチコミかけて、無傷で帰って来た奴に勝てるワケが無いだろ? 修平は狂犬なんて可愛いもんじゃねえ。例えるなら狼か虎だ。止めとけ!」
完全に戦意を喪失した川本の顔に、ひきつった愛想笑いが浮かんだ。
そんな川本の様子に修平は呆れたように溜め息をつくと、何も無かったように椎名に話しかけた。
「椎名さん。白岩さんはもうヤバいのか?」
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