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白岩と言うのは椎名達の所属する、白岩組の組長である。 三日前に脳梗塞で倒れて意識が戻らないものの、うわ言で「彼岸花が見たい」そう何度も呟くので椎名が修平に彼岸花を病室に活ける事を依頼したのだった。 「多分、このまま……」 椎名は歯を食い縛ると、悔しげな表情を浮かべた。 「どれくらい持ちそうなんだ?」 「今夜が山だそうだ。 式は松福寺でやるつもりだが、お前は確か明後日はフローリストの全国大会だったよな?お袋さんと親父さんに会場の花を頼んで貰えるか?」 「勿論、うちの店でやらせて貰うが、何で俺に頼まない?」 「お前は大会があるだろ」 「そんなもん興味ねえよ。白岩さんの式の飾りは俺に任せてくれ」 婿養子である修平が、妻の実家の家業である花屋を手伝い出したのは一年前の事だが、この男は喧嘩が強いだけではなく、何事につけて天性のセンスとでも言えるものを持ち合わせている。 『花を見れば、その花がどう活けて貰いたいのか語りかけてくれる』 普段からそう、うそぶく修平だが、修平は一ヶ月前にアレンジメントの地区大会で優勝して、明後日には東京での全国大会が控えていた。 もっとも、修平に大会への興味は始めからなく、地区大会への出場も義母のひな乃が勝手に決めた事だった。 「本当に良いのか?」 椎名の問いに修平が当たり前のように頷いた。 「……すまない。頼む。お前がやってくれれば、親父も喜ぶ」 そう言って椎名が修平に頭を下げた。
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