第1章

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鳶色の瞳にじっと見つめられて、戸惑った安曇が瞼を伏せた。 そんな彼の表情に引き寄せられるように、藤間が顔を近づける。まだ冷たい、と藤間の指が安曇の唇をなぞってから。伸ばした腕で脇に置いてあった小瓶を掴んだ。 「飲んで下さい。温まるから」 唇に当てられて、安曇が一口飲み込む。 きつい蒸留酒にけほけほと噎せた背中を、藤間が慌てて擦った。一本に編んだ黒髪が安曇の白い背中で揺れる。 「だいじょぶですか?」 「あ……すまな……」 唇から顎に零れた雫を拭った指を、赤い舌がぺろりと舐めた。その仕草に、知らず安曇の目元が染まる。 「顔色もだいぶ良くなってきましたね……ホント、良かった」 優しい指先がこめかみに貼りついていた安曇の髪を梳き上げた。 見つめてくる鳶色の瞳から逸らした視線を落とせば、露わに密着したお互いの身体がまたも視界に入って。 「――っ」 「え?」 腕の中で身を固くした安曇の困惑に気づいた藤間が、ああ、と薄く笑った。 「服、ぐっしょりで、身体が冷えきってたから……安曇さんの服まだ乾いていないし、俺のでもいいですか?」 ぱちぱちと暖かく燃える暖炉。その前に広げられた衣類にちらりと目を走らせてから、藤間がするりと毛皮から抜け出た。 不意に体温が奪われた気がして安曇が自分の肩を抱く。屈んで腕を伸ばした藤間が、その身体をもう一度毛皮で包みこんだ。 そのまま立ち上がって、藤間が暖炉の前を横切る。 燃える薪の明りだけの薄暗い室内。炎の照り返しに浮かび上がる無駄のない筋肉のついたしなやかな裸体。うなじでひとつに結わえた少し癖のある長い茶色の髪は、先端に行くにつれ色が抜けて金に近くなっている。 身に着けているのは喉元にかかったペンダントと、両手首に巻かれた革の帯だけ――その右足首に巻いてある白い布に安曇の視線が止まった。 布に滲んでいる色に、はっと息を呑む。それは紛れもなく血の色だった。 「古着ですけど、ちゃんと洗濯してありますから」 自分もシャツを羽織りながら、安曇の前に服を置く。 「それは……俺のせいか?」 彼の視線に気づいた藤間が、足元に目を落とした。 「安曇さんが崖下に倒れてて、そこを滑り降りた時にちょっとね。掠り傷です」 たいしたことはないから気にしないでと笑う顔を、眩しいものでも見るかのように安曇が目を細めた。 「……ありがとう」 袖を通したシャツからは、真冬だと言うのに太陽の匂いがした。
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