第1章

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「当分は止みそうにないですね、吹雪」 山小屋の窓をそっと押し開いて外の様子を伺った藤間が、吹き込んできた風と雪に慌てて戸を閉めた。 「天候が回復するまで、動けませんね……きっと安曇さんのこと、心配してるだろうに」 熱いミルクを満たしたカップを差し出されて。木製のベッドの背凭れに身体を預けた安曇が、それを掌で包むように受け取る。 「……君はここに住んでいるのか?」 さして広くもない山小屋の中をぐるりと眺めて、安曇が訊ねた。丸太を組み合わせて作った小屋。家具といえば小さなテーブルと椅子、それに安曇が身体を休めているベッドだけ。 それでも壁に掛けられた手織りのタペストリーや、これも手作りらしい細々とした飾り物が、どこか暖かい雰囲気を醸し出していた。 「俺の家は、代々この森の番人なんです」 その言葉に安曇が眉を寄せる。常盤の森に番人がいると言う話は、領主である父からも聞いたことはなかったから。 「もしかして、ここは隣の領地なのか?」 はいと頷く藤間に、ずいぶん奥まで迷い込んでしまったのだと安曇が少し驚いた。 「君独りなのか?家族は?」 「両親は、俺が子供の頃に……」 言いにくそうに消えた語尾。あ、と安曇が唇を噛む。 「――すまない。無神経な事を聞いた」 いいえと笑った藤間が、ベッドの端に腰掛ける。 「もう二十年近く前の事だから……それより安曇さんこそ、なんでこんなとこに?真冬に来る場所じゃないですよ」 「……領地で、病が出ている」 安曇の視線が落とされた。 冬の初めごろから流行りだした病。高熱を発するそれは、若い者や頑強な者には悪い風邪程度の症状で済んだが、子供や老人など抵抗力の弱い者には、致命的で。 常盤の森の奥にあるという薬草が効くと、人づてに聞いてやって来た。 「……天候も下っているし、危ないからと止められたんだが……」 領民の苦しみを思うといてもたっても居られずに、無理を押して山中に入った。そこで吹雪に遭い供の者ともはぐれてしまったところに――。 「……狼に襲われた」 「え」 鳶色の瞳が見開く。 黒の森には狼の群れが住んでいる。普段は森の奥深く隠れていて人前になど出る事はない。しかし不用意に森に分け入った者が襲われる事も、しばしばあった。
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