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俺が自覚する市原元春という男は、貪欲で、図太く、怖いもの知らずで、欲しいものは必ず手に入れる。
オートバイにまたがって、サーキットコースを時速二百キロでグルグルまわる。
親に乗せられたモータースポーツの道は、俺の気質にピタリとハマった。
勝てば気持ちいい。気持ちよくなりたいから、練習に打ち込み、そうして俺はまた勝った。そのくりかえし。
成長に合わせて、排気量やそれに伴うクラスを駆け上がっていく中で、同年代のやつらには負けたことがない。日本選手権でベテラン選手に揉まれながらも、ルーキーオブザイヤーをもぎ取った。
高二になり、ロードレース世界選手権・通称MotoGP、Moto3クラスへ参加可能な下限年齢に達し、俺はついに世界で戦う権利を手に入れた。
その夏のことだった。
世界選手権参戦中のイギリスで、レースで昂ぶった心身を沈めようと見知らぬ街をブラブラしていたときだった。
広場に人集りのができていた。ひとつの大きなステージと、地べたにマットかシートを張っただけの簡易ステージが二つ、どれにも人が群がっている。飲食を扱っているようなテントもいくつかあって、それぞれ行列をなしていた。
見たところ、どうやら、ダンスフェスのようなものらしい。退屈しのぎに、当日券を購入して中に入ってみれば、再入場用のブレスとともにパンフレットが渡された。ぱらぱらめくると、なんと日本人がいる。
『Halto(Japan)』
しかも『Halto(Japan)』は、大きい方のステージと、小さい方のステージに出る模様で、パンフレットをざっとみた限り、そういう人は『Halto(Japan)』しかいない。
大きいステージの出番はもう過ぎてしまっていたが、小さいステージの出番は二十分くらい先、暇つぶしの暇つぶしに暇を持てあましている状況に苦笑しながら、出店の列にならんだ。
やっとのことで購入した、やけにパサついたホットドッグに口内の水分を全部持っていかれていると、司会がやけに煽る。巻き舌をふんだんに駆使して『Halto』を呼ぶもんだから、K-1かなにかが始まりそうな雰囲気だった。
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