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「あの……」彼の視線がスッと落ち、指が名簿を滑ってなぞる。人差し指が二度、『戸倉晴都』の上を叩いた。「ここです」
爪の大きな、長い指だ。深爪すれすれに丁寧に切りそろえられている。几帳面な子なのかな。
「あっ、ごめん」
慌ててチェックを入れて、花を掴む。大きな手の平が開いた。その手を掴みたい。こらえて、手のひらに花を置く。
「入学おめでと」
「どうも」
彼は眉一つ動かさず、軽く会釈をしてスッと脇にはけた。
トトトトトトトと、腹の内側を鼓動が叩く。俺は知っている。このリズムを、この響きを、知っている。しかし、それが何なのか思い出せない。
「晴ちゃーん! 遅いよもう!」
「うるせえよ、まいたけ」
その声に振り返ると、体育館の入り口で女の子に腕を抱かれている彼がいた。
「さっさと中に入ってろよ。待ってる意味がわかんねえ」
「せーの、で一緒に入りたいじゃん!」
「はあ」
「香織はまだかなあ。ねえ、晴ちゃん。香織見た?」
「あそこにいる」
「ほんとだ! 香織、ヨコ高の制服似合うなあ。見たところ、高校でも香織が一番の美人さんだね!」
「なんでお前が誇らしげなんだよ」
ちょっとモト、と肘で小突かれて我に返った。
「あ、ごめんごめん」前に突っ立って困惑している新入生に笑顔を振りまく。「えーと、名前は?」
ああ、欲しい。
しかし、だれだあの女。
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