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入学式、そのあとのHRが終わるまで、生徒用玄関の段差に座って彼の帰りを待っていた。
今ごろ自己紹介してるのかな。平然とした顔で順番を待って、平然とした顔で名乗って、「特技はダンスです」とか言うのかな。
それにしてもイイ声だった。高くもなく低くもない、すっきりとした声質が、ゆっくりでもない忙しくもない、確固たる自分にしたがって悠々と発声される。
あの声が俺の名前を呼ぶのを想像して、首の後ろがゾクリとした。その感覚が堪えがたくて、細く、長く、息を吐く。拳を握る。拳が震え、反対の手で拳を包んだ。乾いた唇をそっと湿らせ、息を吸う。
いいな、欲しい、ますます欲しくなる。
土埃のにおい、開けっ放しのガラスドアから陽が射し込む。ぴかぴかの一年坊しかいない校内の、階段を下りてくる内緒話みたいな最初のHR、角の取れたそよ風に前髪が揺れる。
はやく、はやく、はやく俺のものにしたい。
そのうち、在校生がちらほらと部活のために登校してきた。
「モトー、一年の玄関でなにしてんの」
「人待ってんのー」
「ふうん」
「マー君は部活?」
そうそう、と頷くマー君の後ろで、「元春せんぱーい」とテニスラケットを背負った女子が二人が声を上げる。
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