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彼女たちに手を振ると、わちゃわちゃとじゃれ合う。知らない子たちだ。声をかけて欲しそうな顔を見切って、マー君に視線を戻すと、
「あれ、ハルじゃん」と、千野クンが通りかかった。「こんなとこでなにやってんだよ」
「人待ってんだと」と、俺のかわりにマー君が答える。
「一年の玄関で?」
「ん」
ひとり、ふたりと新入生が玄関から出てきた。下校が始まったらしい。
「なんだあ? 今度の一年に知り合いでもいんの?」
「好きな子」
「は? 直子嬢?」
まばらに出てくる新入生たちをじっと見ながら、
「直ちゃんは、一年でもないし、好きな子でもない」
「えっ、ハルの本命って直子嬢じゃないの?」
「じゃないの」
てっきり直子嬢が本命かと思ってた、と驚いたように呟く千野クンの向こうで、
「晴ちゃんは、お昼なに食べたい?」
「そば」
「えー、やだー!」
「じゃあ訊くな」
「香織は? パスタ?」
「マイはパスタが食べたいのね。いいよ、パスタにしよっか」
彼と、さっき彼の腕を抱いてた女と、また別の女が玄関から出てきていた。
立ち上がって、見失わないように彼らに視線を縫いつけながら、
「ごめん、来たから。じゃーね、マー君、千野クン、部活がんばってね」
「おう……」
あっけにとられたような声を出して道をあける二人の間を通り、舞い散る桜の間を縫って、彼らのもとへ歩く。
「戸倉晴都君!」
腕を掴んだ。想像よりもしっかりした腕と、振り返った驚きの表情と、見開かれたその瞳の輝きに、俺は言葉を失った。
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