318人が本棚に入れています
本棚に追加
「……なにか?」
訝しげにしかめられていく表情に、そもそも失うべき言葉すら用意していなかったのだと気づいて、慌てて取り繕う。
「あのっ、これから飯でも……よかったらお友達も一緒に……」
「はあ」
怪訝な表情から、あきれ顔に変わっていく。焦りが募っていく俺の背後から、
「おい見ろ、ハルがなんか一年に絡んでんぞ」
「モト、お前なにやってんだよー」
「さっそく一年イジメてんのかあ?」
「大人げなねーぞ、元春ー!」
次々とはやし立てる外野に「うるさいよ!」と一括していると、
「元春って、もももしや市原元春!?」
彼の腕を抱いてたほうの女が飛び上がる勢いで言った。
「俺のこと知ってるの?」
「もちろん知ってますよ! ね、香織!」
もう一人の、やけに美人だが能面みたいに表情の動かない女は香織と言うらしい。無言で頷く。
「すごいね、晴ちゃん! 実物のほうがかっこいいね、晴ちゃん!」
と、やけに晴ちゃん晴ちゃんと元気に騒ぎ立てるが、当の本人は、なにがなんだかといったふうに、眉をしかめて俺を見ている。
「あ」彼の目がふわっと緩まった。「思い出した、さっきの受付の人」
ほんの少し警戒心の薄れた顔が、あどけなく見えて可愛かった。
最初のコメントを投稿しよう!