寒のもどり、ハル

Halt(Japan)

　彼が教室に来る曜日はまばらで、最近は減って週に一、二回来るという。
　俺はといえば、来週こられるのは練習のオフ日だけで、再来週はホームのシンガポールで調整に入るから無理、そのまま十四戦目のGPでチェコに飛ぶ。
　やっとこぎつけたオフ日に訪れると、彼は退会したと知らせられた。
　訊けば、彼はカポエイラという格闘技を始めたのだとか。彼が県内に住んでいると仮定して、携帯端末で検索をかけてみれば県内にあるカポエイラのスタジオは四カ所ほどだ。
　これから、一番近いところの一カ所は回られる。次のジムは、GP十四戦目を終えた帰国直後、見つからなければその後はまた次の週のオフ日、その後は、シリーズ終盤にさしかかり、レース間のインターバルが短くなるので、最終戦まで帰国せずに次々と開催国へ飛ぶ。
　そもそも所属しているスタジオを見つけたとして、その日に会えるとも限らない。世界各国を回ってレースする世界選手権シリーズの最中では、名前しか知らない彼を探し出すことは至難の業のように思われた。
　結局、彼の所属するスタジオを見つけたものの、危惧したとおりその日に会えることはなく、会えないままシリーズ終盤に突入した。
　サーキットに入りさえすれば、レースのことで頭がいっぱいになって考えずに済んだが、レースとレースの間、特に、ホテルで一人夜を過ごしているときがつらかった。