エピローグ

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 四月。真夏は大学生になった。同じ県にあるといっても大学は遠い。大学へは片道一時間半かけて電車で通っている。帰宅すると、おれの警察官採用試験の勉強につきあってもらっている。休日は家庭教師のバイトを始めて家計にも協力している。時間があれば母に料理を教わっている。あまり無理しないでほしいが、たいしたことないと真夏は笑う。  大学ではサークル活動にも参加しないし、誘われても飲み会にも一切出なかった。おれはそこまで真夏を縛る気はない。  「せっかくの大学生活だから楽しめばいいのに」  「君のためにつきあい悪くしているわけではない。単に私が君といたいだけだ。気にしなくていい」  そう言いながら、実はおれが心配しないように気遣ってそうしているのだ。おれには分かる。  おれは三年生になった。また竹之下が担任だった。おれが真夏と入籍すると竹之下は義理の兄となる。竹之下もそれは分かっているはずだが、おれが自分のクラスにいて問題はないのだろうか?  同じクラスに川島田優もいる。そしてなぜか、今年もおれがクラス委員長を任された。向いてないというのに。でも、こういう経験が将来警察官となったときに役立つかもしれないとも考えられるし、やる以上はしっかり取り組むようにしている。  五月、金曜の六時間目に三年生だけを集めて〈卒業生と語る会〉という行事があった。三月に卒業した卒業生のうち優秀な人を三人招いて、進路について自身の体験を語り後輩にアドバイスするというもの。もちろん真夏も含まれている。  一部上場地元企業就職者と理系難関私大入学者の話のあとの最後のトリが真夏だった。相変わらずの流ちょうな話しぶりだった。それに加えて、生徒会長時代と比べてメリハリをつけて話すのが上手になった気がする。教師になったときに備えて話し方も研究しているのかもしれない。
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