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寛政元年2月16日、その夜は新月であった。
小伝馬町にある、油卸し問屋である宝月屋に強盗が押し入った。
時は丑の刻(現在の午前2時ごろ)のころであった。
入った賊は8人。それそれ黒ずくめにして、黒い頭巾で顔を隠していた。
その賊共の押し入り方は、他の盗賊とは異なる手口であった。
これまでの賊は裏戸を強引に押し開け、金品はもとより強姦し、
殺していくものがほとんどだったが、この盗賊集団は違っていた。
隣家の屋根伝いに、目的としている大店おおだなの上までいき、
瓦を一枚一枚音も無く剥ぎ取り、人一人入れるだけの穴をうがつのだ。
そのうがつ音さえも、耳をこらしても聞こえぬほどの手際良さであった。
被害は家人12名の命と、1500両。
天井裏から忍び込み、家人をひとり残らず殺害。
その後、金銭をずた袋に小分けして、また天井から
逃げていく。その間、半刻もかけずにやってのけるのである。
何の証拠も残さず、近隣の住人にさえ何も気づかれずに
物取りをするその所業は、並みの盗賊ではない。
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