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そして油問屋、宝月屋の事件は、
そのひと月前に起こった、同じ手口で押し入れられた
小間物屋こまものとんや小諸こもろ屋に続いて、2件目だった。
「番屋」と大きく書かれた障子戸は閉じられていたが、
耳をすますと、かすかに草笛の音色が聞こえてくる。
その男は番屋の板張りに寝転んで、うつろな目で
天井を見つめていた。彼の口には草笛。
何かの子守唄でも吹いているようだ。
男の名は「双伍」。いつも草笛を手に放さぬことから、
通称「草笛双伍」と呼ばれている。
年のころは、二十を少しすぎたくらいの若者だった。
派手な文様の紫染めの着物に、赤い帯。
その帯には2尺近い長大な十手を2本、その赤帯に
差していた。
頭の後ろに組んだ両手には、頑強な籠手が着けられている。
しばらくは草笛を吹きながら、まどろんでいた双伍だったが、
番屋の障子戸を乱暴に開け放つ音で目が覚めた。
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