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「親分、沢村の旦那が呼んでますぜ!
なんでも宝月屋に賊が押し入ったとか」
双伍は跳ね起きた。わらじを突っかけると、
「弥助、案内せい」
弥助と呼ばれた下っ引きは、汗だくになりながらも
双伍を先導し、駆けていく。
まもなくして、双伍は現場に着いた。
宝月屋の周りには、野次馬やらで人がごったがえしていた。
その人だかりを、数人の下っ引きたちが人払いをしている。
人ごみを掻き分けて、双伍は店の中に入った。
「おう、双伍じゃねえか。待ってたぜ」
そう声をかけてきたのは、同心の沢村誠真。
歳は双伍より5つほど上の男だ。また、覇道派一刀流免許皆伝の達人でもある。
他には与力の徳松新太郎の姿もあった。
二人とも長谷川平蔵宣以―――鬼の平蔵と恐れられる、
火付け盗賊改め方直属の部下だ。
平蔵の親方のかかえる密偵は22名ということは承知しているが、
その中に双伍の名はない。だが、あの男は平蔵の親方の懐刀とも
噂されている特別な密偵の役割もしていることは、
火付け盗賊改めの与力同心の間では、公然の秘密だ。
ただ、何が双伍という男が特別なのかは謎だった。
この事件、大捕り物になるやもしれん・・・
沢村誠真は、去っていく双伍の後姿を見ながら腕を組んだ。
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