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「オレの名は風魔小太郎、しかし今は
忍びを捨てて、抜け忍としてくらしておりやす」
「風魔小太郎とな?これは驚いた。
凄腕だとは思ったが・・・
オレはとんでもねぇ奴を相手したんだな」
冗談ではなく、本気で怖れたようだ。
それから双伍は、これまでのいきさつを
平蔵に語った。
「・・・なるほどな。では、官舎の与力同心を
叩き起こして、その盗賊どもを一網打尽に
しよう」
平蔵はそう言うと、煙草の灰を火鉢に捨てた。
「おめぇの弟は、おめぇで救え」
平蔵は強い語気をはらんで言った。
そして言葉をつなぐ。
「それともうひとつ。おめぇ、オレの戌いぬにならねえか?」
驚いて双伍は顔を上げた。
戌とは<密偵>になれという意味だ。
<密偵>とはお上の手足となり、情報を集める者のことである。
「だが、おめぇは戌というより、狼だな。
ただの戌にしとくのはもったいねぇ。
どうだ?その腕、十手持ちとして、世の為、人の為、
役に立てようという気はねぇか?」
平蔵はにこやかに言った。
双伍はうなだれた。これほどの人物とは。
自分の命を狙った輩を見逃した上、
配下になれとは・・・。
「その忍び装束じゃ、まずかろう。オレの
お古の着物がある。それに十手もな。
久栄、持ってまいれ」
久栄は再び奥に姿を消すと、しばらくして再び現れた。
その手には丁寧にたたまれた紫の着物と黒い股引があり、
その上には2尺を越える、長大な十手が2本
乗っていた。
「この十手は特別な代物だ。戦国の世に作られたものでな。
兜も割れるほどの威力がある。でかくて重いが、
おめぇなら使いこなせるだろう」
長谷川平蔵はそう言って、ひざまついている
双伍の前に押しやった。
「このご恩は、命を賭してお返しします」
双伍はそう言うと、立ち上がった。
その場で、すばやく着替え、腰帯に2本の十手を差す。
長谷川平蔵も黒い羽織りに身を包むと、
兜をかぶる。腰には<粟田口国綱>、
脇差には<備前兼光>を差した。
二人は、八丁堀の官舎に向けて走った。
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