354人が本棚に入れています
本棚に追加
どうしてこんなに好きなんだろう。
目の前に座る美弥をまじまじと見つめる。
すっぴんの顔は剥きたての茹で卵のように白くツルッとしていて、プルンとした唇は赤い。
綺麗な弧を描いた眉毛や長いまつ毛を見れば、彼女には化粧なんか必要ないと思う。
一見、地味に見えるのは盛っていないからであって、よく見ればシンメトリーな顔は美人と言ってもいいぐらいだ。
本人は少しぽっちゃりな体形を気にしているようだが、胸は結構大きいようだし、メリハリのある脚は色気さえある。
もちろん、美弥の容姿は彼女の魅力の一部だけど、惹かれる理由はもっと別のところにある。
美弥の内面の複雑さ。
飾り気がなくて、誰とでもすぐに打ち解けられる。
情が深くて、気配りができる姉御肌だから皆に頼られる存在。
よく笑って、よく食べて、一緒にいて楽しい。
最初は俺もそんな一面しか見えていなかった。
でも、頻繁に会うようになって打ち解けてきたら、別の面も見えてきた。
意外と寂しがり屋だったり、強がりだったり。
もっと知りたい。甘えてほしい。
そんな欲が出てくるころには、もうどっぷりと惚れていた。
奨学金で大学に通う学生は珍しくないご時世だが、美弥は”苦学生”と言っていいと思う。
大学には真面目に通っていて、ゼミにかなりの時間を拘束されている。
残りの時間のほとんどをバイトに充てているから、俺とのデートは週1回程度しかない。
違う大学とは言え、大学生同士のカップルにしては少ない頻度だと思う。
それを足りないと感じているのは、たぶん俺の方だけだ。
「うーん。」
ランチプレートを前に美弥が小さく唸った。
最近、こういうことがよくある。
「食べきれないなら、俺がもらうよ?」
「うん。じゃあ、お願いします。ありがとね。」
美弥のプレートと俺の空になったプレートを交換して食べ始める。
美弥は綺麗に食べる子だから、食べ残しを食べるのに抵抗はない。
むしろ、彼氏の特権みたいで嬉しかったりする。
「最近、食欲がないみたいだな。夏バテ?」
血色はいいけど、ちょっと心配になった。
「じゃなくて、たぶん胃が小さくなったんだと思う。」
意味がわからなくて、美弥を見つめた。
「食べる量、少しずつ減らしてるから。」
ちょっと恥ずかしそうに俯いた美弥を見て、やっと”ダイエット”という言葉が思い浮かんだ。
最初のコメントを投稿しよう!