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「え、何で?」
ダイエットなんかしなくても、そのままで十分かわいいのに。そんな言葉は照れるから、とてもじゃないけど言えない。
きっと女の子はそういうことをちゃんと言ってほしいんだろうな、ということはわかっている。
わかってるけど、言えない。
「いや、だってさ。そろそろ水着の季節じゃないですか。初めての彼氏とプールに行きたいけど、ポッコリお腹じゃ恥ずかしいもん。」
まるで女友達に話しているような言い方だけど、これが美弥の照れ隠しだということは段々わかってきた。
「俺とプールに行きたい?」
やべえ。嬉しすぎて、ニヤけちまう。
口元を手の甲で隠して尋ねると、美弥はちょっと情けない顔で頷いた。
「行きたい。けど、ポッコリお腹がへっこんだらね。」
そんなの待ってられない。
「ポッコリのままでも、ビキニ着ればいいんじゃね? 視線が胸に行くから。」
「いやいや、お腹も目立つって。…亘って、案外むっつり?」
「普通。」
肩を軽く竦めた。
俺はかなり奥手な方で、美弥に出会うまで女性に欲情したこともなかったほど。
その反動か、近頃はムチャクチャ盛っている。
「じゃあさ。ゴールを決めておこう。お盆過ぎに一緒にプールに行く。そう決めておけば、頑張れるだろ?」
あと2か月近くあるから、無理なく痩せられるんじゃないかと思ったのに、美弥はブンブンと首を振った。
「お盆過ぎはダメ! 実家に帰ると確実に太るもん。お盆前にして。」
確かに。俺も実家に帰るとなんだかんだ食べて、車でしか移動しないせいか太ってしまう。
「わかった。じゃあ、お盆前のデートはプールな。そのかわり、無理なダイエットは禁止。」
「頑張るぞ、おー。」
呟くように言って、小さく拳を上げた美弥がかわい過ぎて抱きしめたくなる。
ちょっとでも細くなった自分を俺に見せたくて頑張ろうとしているんだ。
美弥はどんどん綺麗になっていく。
共通の友人の多賀もそう言っていた。
俺に恋をして綺麗になっているのなら、こんな嬉しいことはない。
”恋”なのかな? 美弥の俺への気持ちは俺と同じように”恋”なんだろうか。
ただの友達の延長。一緒にいるのがラクで楽しい。そんな感情じゃないのか?
ふと浮かんだ疑問は、心の奥に隠した。
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