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「亘の助言に従いました。」
プールの最寄り駅である西立川の駅に現れた美弥は、開口一番そう言った。
「助言?」
「そ。ビキニにすれば視線は胸に行くって言ったでしょ。だから、ビキニ買った。人生初のビキニ。」
どうやらビキニを着るってことは男が考える以上に勇気がいることらしい。
ビキニを連呼するのは美弥の照れ隠しだ。
だから俺も、お腹に目を走らせないようにしてあげよう、なんて密かに思っていた。
更衣室から出て来た美弥は白いパーカーを羽織っていて、正直がっかりした。
でも、後のお楽しみってことで。
俺の裸の上半身を見て、美弥がどういう反応を示すかも楽しみにしていたのに反応なし。
別にムキムキなイイ身体をしているわけじゃない。でも、貧相と言うほどじゃないし、胸毛があるから結構ワイルドに見えるはず。
ちょっとはドキッとしてもらえるかと思ったのに。
「男の裸は弟がいるから見慣れてる?」
「ああ、うん、そうだね。弟と…」
言いかけてやめた先の言葉が『叔父』だったことを知るのはずっと先のこと。
「弟は水泳部だから逆三角形でカッコいいんだ。」
美弥はよく弟の話をする。自慢の弟だと言って誇らしげに語る。
それが俺にはちょっと面白くない。自分でもちょっと呆れる。
ウォータースライダーの長蛇の列を見て、ちょっと怯んだ俺たちも仕方なく最後尾に並んだ。
そこで初めて美弥はパーカーを脱いで、バスタオルと一緒に近くのフェンスに掛けた。
…これは、ヤバいだろ。
何がって、ホントに色々ヤバ過ぎ。
迫力満点の胸のデカさにまず圧倒されて。
それから、肩が思ったよりも華奢だなとか、腹、ちゃんとくびれてるじゃんとか、あちこち見てもそそられて。
どうしたって下半身に目が行ってしまうのは、毎晩妄想しているから。
「あんまり見ないで。特にお腹。」
「ポッコリどころか、くびれてる。」
「そういうことにしておいて。今、息吸ったまま止めとくから。」
「写真撮ってもいい?」
「お腹隠していいなら。」
「その手、かえって不自然。」
そんなやり取りの末に撮った1枚は、その後何年も俺を慰めてくれることになった。
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