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季節は駆け足で通り過ぎて、夏の暑さが恋しいぐらいになっていた。
東北で生まれ育った俺には東京の冬なんて大したことはない。
なのに、近頃では美弥に会うたびに『寒い』と言っている自分がいる。
寒いから2人きりになれるところで温め合おう、と。
あれから、美弥との仲はどんどん深まって、デートのたびにどちらかのアパートで身体を重ねるようになっていた。
とは言っても、文字通り”重なっている”だけで、最後までは行っていない。
別に、俺が童貞だからって、自信がないわけじゃない。
それより、処女の美弥を怖がらせたくなかった。
痛くしてしまうのは仕方ないにしても、少しでも痛みが少ない方がいい。
1つになる喜びを一緒に味わいたいと思っていた。
そのために、ゆっくりと慣らしていく。
そんな過程を楽しむ余裕がまだ俺にはあった。
キス1つに驚いていた美弥が、やがて喘ぎ声を我慢できなくなって。最近ではぐちゃぐちゃに濡れるようになって。
もういいじゃないかと思う俺と、まだ早いかもと思う俺が毎回せめぎ合っていた。
2人が初めて結ばれるのは、特別な日がいいんじゃないかと思ったのは、美弥の誕生日が迫ってきたからだ。
俺の誕生日じゃないけど、俺の中では誕生日に美弥のすべてをもらうことはほぼ確定だった。
2人が付き合い始めて最初の美弥の誕生日。プレゼントをアクセサリーにしようと思ったのは、ウォータースライダーの列で見た女たちのことが頭にあったからだ。
本当はサプライズで贈りたかったけど、自分1人でそういう店に行ったこともないし、何がいいかもわからない。
だから、美弥と一緒に見に行った。
アクセサリーと一口に言っても、いろいろあるもんだなというのが今更ながらの感想。
一番贈りたいのは指輪だけど、まだ早いと思われるかもしれない。
美弥はピアスは嫌いで、イヤリングは痛いから苦手だと言っていた。
ブレスレットやアンクレットも見たけど、美弥が足を止めたのはペンダントの前だった。
「これ、かわいい。」
そら豆のようなかたまりのどこがかわいいのか理解できない。
言っちゃなんだが、失敗作のようにいびつだ。
「これ? ホントにこれが欲しいのか?」
俺の懐具合を心配して言ってくれてるんじゃないか。そんな気がした。
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