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試験勉強に勤しむ人を考慮してか、弘樹が声を潜めて笑う。その鼻頭が赤くなっているのを見た優真は、たった今までささくれ立っていた気持ちが落ち着くのを感じて、ほっと息を吐いた。
「ごめん、すぐに片付ける」
「大丈夫。あぁ、その本、返してこようか」
「え? あぁ……いや、すぐそこの棚だし、いいよ」
隠すように本を手にした優真は、そう、と残念そうな弘樹の横を足早に過ぎる。
彼は、弘樹にその本を見せたくなかったのだ。
幼い頃から一緒に生活してきた弘樹に、自身の性で悩んでいることなど知られたくない。
優真は本を乱暴に棚へ戻すと、1度深く息を吸い、何食わぬ顔で弘樹の元へと戻った。
「お待たせ」
ネイビーのマフラーをくるりと巻き付け、優真が濃い赤のリュックを背負う。大丈夫だよ、と微笑を返した弘樹は、優真の半歩先を歩き出した。
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