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確かに……。
誰にも会わないだろうと思って来た山中に、若い女性がいたら驚くよね。
会ったことはない方だが、その時の驚き慌てふためく姿を想像して、
笑みが溢れた。
紫九さんも自然とにこやかになり、話を続ける。
「それからというもの。千代に興味を持った白那様は来る日も来る日も山に赴いた。
まあ…家の者は良く思っていなかったが、御館のすることに口出しはできまい
そうして白那様と千代は、順調に仲を深めたんだ」
人間と白狐……一見ちぐはぐな二人だが、
山でひとり寂しく暮らす千代と、お嫁さんと気が合わず居心地の悪い白那様は、何かと気が合ったのかもしれない。
「────ある嵐の日。事件は起こった」
ワントーン低くなった声に、体がビクついた。
どうやらここからが話の中身らしい。
「千代が子を産んだんだ。……狐姿の
父親は言うまでもあるまい。
人間の千代と子を成したと、白狐家では大問題になった。
当然、嫁は怒り狂い………離婚した」
千代さん……
ヒトの姿ではない子を育てるには、誰も頼ることが出来ないし、
きっと心細かったはず。
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