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「おはようございまーす」
「お、おはよう」
俺は新入社員の田崎あすみに困惑しながら挨拶をした。
肩までの黒髪につけまつげ。少し小柄な背丈にはきはきとした口調。笑顔をたやさない口元。
そんな彼女は入社してから話題に事欠かなかった。
ゆとりだから? 新入社員で仕事にミスが多いから?
田崎あすみの場合は違った。その服装に問題があったのだ。
初日の服装はまさかのショッキングピンクのジャラジャラしたピアスにジーンズといった服装だった。当然俺の上司は激怒した。次の日はワンピースにイラストが全面に描かれたストッキング(本人曰くシアータイツ)をはいてきて、これまた上司を激怒させた。そして上司は諦めたのか、俺の肩に手を置いて一言「明日から君を田崎の教育係とする」と言って指導を放棄してしまった。そりゃねーよと俺はため息をついた。
指示が下ったからには仕方がない。俺は彼女に、明日はスーツを着てくるようにと言った。
そして次の日――現在にいたる。ちなみに今日が彼女の出勤3日目だ。
「今日は大丈夫ですよね?」
ツッコミどころがありすぎて一瞬、何を言えばいいのか分からなかったが、俺は冷静に会話をしようと心掛けた。
「田崎さん、その服装は……」
「え? 昨日スーツを着て来てくれっていうからちゃんと着てきましたよ」
「……だからってなんでスカートを短くしたの?」
彼女は市販のスーツをミニスカに改造していた。これではさぞかし通勤中、目立っただろう。
「これですか。なんでスーツってひざ丈なんですかね」
不思議そうに言った。
「だからって改造しなくても」
「改造? 改良って言ってくださいよ。自分でやってんですよ。すごくないですか」
いや、引くから。ドン引きだわ。
「田崎さんは、この春社会人になったんだよね。その服装はどうかと思う」
すなわち、学生気分が抜けてないぞという意味を込めて言った。しかし、彼女は驚いたように目を見開いた。
「短いって言いたいんですか。じゃあ、スーツをどうやって可愛く着こなせばいいんですかね」
可愛いとか、可愛くないとかそういう問題じゃねーだろ、と思った。
「田崎さん、何しに職場に来ているわけ?」
「え? 給料もらうためでしょ?」
そこは仕事のため、会社のため、と答えて欲しかった。この会社は小さい会社なので、なおさら、一致団結の精神が欲しかった。
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