第1章

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.No Title  その母と子は、デパートの帰りでした。屋上のヒーローショウの記念に赤い風船をもらったのでケンタは大喜びでした。 「ママ、風船ママの分も欲しい」 「ダメ、言ったでしょこれはママの分じゃなくてミチコの分なのよ」 お母さんとケンタは1コずつ風船を持っていましたが、お母さんの持っているのはミチコの分でした。ミチコは生まれつき体が弱く家のベットでほとんどを過ごしていました。お医者さんも大人になるまで生きるのは難しいでしょうと言っていました。 そんなミチコの楽しみは家族がときどき聞かせてくれる外のお話しと、さらにまれに持ってきてくれるお土産でした。 「どうしてもだめ?」 ケンタはその風船をよほど気に入ったのかあきらめきれません。 「どうしてもよ」 お兄ちゃんなのに思いやりはないのかしら......。ミチコの体のことを考えると涙がでそうになりました。 「母さん」 「何よ」 「じゃあ、家まで持たせで。帰ったら必ずミチコに渡すから」 お母さんはケンタの欲張りぶりにあきれましたが、外出帰りで疲れていたので風船を渡しました。 「家までよ」 お母さんは念を押して言いました。 「やったー」 ケンタは両手に風船を持って大喜びしました。 そのとたん、ケンタの体に変化が起きました。ケンタの右足と左足が地面から離れ宙に浮いていったのです。 お母さんが驚いたのもつかの間、ケンタはどんどん上がって行きついには青空の上にゆらゆら漂っていた雲にとどいてしまいました。もうケンタはお母さんから見るとほとんど点の大きさになって人かどうかすらわからなくなりました。 あぜんとするお母さんを尻目に今度は東の山から風が突然吹き、ケンタを西へ西へと運んで行きました。ケンタは丁度家がある方向へ流されて行きました。 お母さんはあわてて追いかけました。 お母さんは一生懸命走りました。でも差は開くばかりで追いつきません。 とうとう彼方に見えなくなってしまいました。 お母さんは混乱しました。どうしよう。しかしよく見るとここはいつも通っている家へとつながる道でした。お母さんはとりあえず家へ帰ることにしました。 家について玄関を開けるとお母さんは驚きました。そこにケンタが立っていたのです。 両手に例の風船はありません。 お母さんはケンタに尋ねました。
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