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「まあ、それでも苦戦したのは事実だ。僅か1点差まで追い詰められるとは予想もしてなかったし」
言葉を止めると、柳先輩は少し悔しそうに笑って俯く。
「悔しいけど、あいつは天才だ。俺が1年の時、あいつ程の実力はなかった。少しでも気を抜くと、多分すぐ追い抜かれるだろうな」
「そうっすか…」
その日、俺は自宅に帰ってからも藤木の事を考えていた。
柳先輩の話を聞いて、藤木がまだ野球を好きだという確信に近づいた気がしてならなかった。
そして、やっぱりあいつと野球がしてみたい。
その気持ちがより強くなり、何とかして藤木を野球部に入れられないか
眠りにつくまでその事で頭がいっぱいになっていた。
■
「ふぁあああ…ねむ…」
結局ほとんど眠れず朝になってしまった。
でもいい策は何も思いつかず。
「おす!なんだよ眠そうだな」
「はよ悠太…いや、実はあんま寝れてなくて…」
「なんで?またいつもの無茶なトレーニング?いい加減やめとけよ、甲子園行く前に身体壊すぞ?」
「いや、そうじゃねーよ。ちょっと考え事しててさ」
「まさかまた藤木の事?」
「んー…まぁ…」
「俺が何?」
「うわぁ!!びっくりした!」
当の本人がまさかの背後にいた。
ぼーっと眠気眼をこすりながら歩いていたら、いつの間にか教室の前まで来ていたようだ。
どうやらまた入口を塞いでしまっていたらしい。
「何?俺に用なの?」
「あー…用、っていうか…」
「お前野球やんねーの?」
さすが親友怖いもの知らず。
あまり仲良くないクラスメイトに物怖じせずぐいぐいいける所本当に尊敬する。
「何?何の話?」
「中学の時代表選手だったんだろ?なのになんで野球やめちまったのか気になって」
案の定、藤木の表情がどんどん険しくなっていく。
「だったら何。あんたらに関係ないだろ」
「こいつがお前と野球やってみたいんだってよ。そんなすげーなら野球部入ればいいのになんでやんねーの?」
「だから関係ないだろ!!」
こいつこんな大きな声出せるのか。
物凄い形相で俺たちを押しのけ、教室内に入っていった。
「おー、こわ…やっぱり藤木と野球すんの無理なんじゃね?諦めたら?」
「そう、だな…」
藤木はなんであんなに頑なに野球を拒絶するんだろう…
本当に嫌いなら二度とボールなんて投げない。
なんで嫌いなんて言ったんだろう
知りたい。
藤木の事、もっと。
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