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「何だよ」
「いや、ごめん、その…」
「離せよ」
「……嫌だ」
「はぁ!?」
藤木は怪訝な顔をして、俺の腕を振り払おうとするけど
何となく今ここで帰してしまったら、このまま有耶無耶になってしまいそうで
必死に腕を掴んだ。
「いっ…!何なんだよお前!離せって!」
「俺がお前の球打てたら野球部入るか!?」
「……は?」
「あ……と、俺と勝負してよ!俺が負けたら諦めるから!」
自分でもとんでもない事言ってるのはわかってる。
というか絶対に勝ち目のない勝負を申し込んでるのもわかってる。
中学の時無名の選手、しかも補欠の俺と
日本代表で雑誌に何度も載ってる有名選手じゃ実力差は雲泥の差。
でも思わず口から出てきてしまった。
やっぱり、俺はこいつと野球がしたい。
その思いが零れ出てきてしまった。
「馬鹿馬鹿しい。するわけないだろ」
「俺みたいな雑魚に負けると恥だから?」
「…あ”?」
藤木の表情が一層険しくなる。
実は同じクラスとわかってからずっと藤木の事は観察してたからわかる。
こいつはとんでもなく負けず嫌い。
雑誌読んでより確信した。
「野球やりたくないんだろ?でも俺はこのまま何もせずお前の事諦めるの嫌だから、勝負申し込んでる。なのにお前は勝てる試合を放棄するんだ?」
「……」
「負けたら潔くお前の事は諦めるって言ってるんだぞ。それとも何?ブランクあるから俺みたいな無名の雑魚に負けるかもしれないって、また嫌いな野球やらなきゃいけないかもって怖いのか?だから返事ためらってんのか」
「そんなわけないだろ!!」
「じゃあ勝負するか?」
藤木はしばらく逡巡した後、ゆっくり口を開いた。
「…俺が勝ったら、もう付きまとわないんだな」
「お、おう。約束する」
「でも今バットないぞ」
「今はさすがに絶対負ける!それは無理!嫌だ!1週間時間くれ、来週のこの時間ここで、勝負しよう」
「…わかった、じゃあ勝負までの1週間も俺に構うな。俺が勝っても付きまとわない。それでもういいだろ。離せよ、帰るから」
「あ、悪い。じゃあ来週な!逃げんなよ」
立ち去る藤木の後ろ姿を見て、俺は口元がどんどん緩んでいくのがわかった。
正直、勝ち負けなんてどうでもよかった。
藤木の球が打てる。
それだけで俺の心音はどんどん煩く響き、脈打っていた。
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