1イニング―交錯―

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響き渡る仲間たちの声。 真っすぐ伸びるボール。 そして、高く綺麗に響く金属音。 俺はこの空間が、大好きだ。 「松永!!」 「へ…アブぁっ!!!」 顔面がひりひりとし、口内に鉄の味が広がるこの感じ。 これは…好きにはなれそうにないが ボールの匂いは、嫌いじゃない。 「いってぇ…」 「お前馬鹿か?練習中にぼーっとすんなよ。ボール顔面キャッチとか見てるこっちがいてぇわ。軟式でもいてぇのに硬球で鼻血で済んでよかったじゃねぇか」 真っ赤になった鼻の痛みに耐えながら絆創膏を貼る。 やっぱりこの痛みには慣れそうもない。 「わりぃわりぃ。やー、ついうれしくてその喜びに浸ってしまって意識飛んでたわ」 「ほんっと、お前ってとことん野球馬鹿だよな」 「当然!俺にはこれしかないからな」 松永陽平。16歳 野球一筋の野球馬鹿。 野球がやりたくて、この甲子園常連校、プロ入り何名も輩出している東愛高校に入学。 先輩達からの、監督からの厳しい指導に耐え続け、1年で残ったのは俺とこの幼馴染の豊中悠太だけ。 厳しくてもしんどくても、野球が好きだから続けてきた。 そして、中間テストが終わり部活が実に1週間ぶりに解禁となった今日 初めて外野ノックに参加させてもらえた! 今までバットにもボールにも触れず、ただの掃除、雑用しかやってこなかった俺たちがやっと野球らしいことをやらせてもらえたんだ。 これは浮かれないわけがない! 「嫌なテスト週間乗り切ってよかったーー!!」 「うるせぇ!他のクラスの迷惑だ!」 「いやあ嬉しくてうれしくて…今日放課後の部活でもやらせてもらえるかな!」 「ボール顔面キャッチした時点でそれはもうねぇな」 「えー、嘘だろーもっかいやりてぇのにー!」 「やかましい。どいてくれないか」 「え?」 背後に声がし、振り返る。 「あ、わり…」 背後にいた人物。 華奢な体。 艶がかった綺麗な黒髪。 大きな黒目。 女装したら間違いなく美人であろう、不愛想なこの男。 クラス…いや、恐らく学年一の秀才。 藤木秋。 「なんだあいつ。ほんと愛想ねーな」 「…悪い奴ではないと思うんだけどな」 俺が今、野球の次に興味を抱いている人。
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