1イニング―交錯―

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きっかけは入学式の前日。 近所の河川敷をランニングしている最中、高架下から壁に何かが当たるような音が聞こえてきたのがわかり遠目から様子を見てみた。 聞き覚えのあるその音に、俺は思わず立ち止まらずにいられなかった。 「誰だろ、壁当てしてるやつ…」 そう思ってこっそり近づいて見てみると、一人の男がボールを壁に向かって投げていた。 「…あいつ、たしか試験の時いたやつ…」 その綺麗な顔立ちは男でも目を惹かれるような見た目だった為よく覚えていた。 しばらく声をかけず、俺はその男をずっと見ていた。 いや、正確には声をかける事ができなかった。 あまりに綺麗なフォームのストレート 目を疑う程完璧なカーブ チェンジアップなんて何キロ出てるんだろ なんて、完璧な投球フォームなんだろう あまりの綺麗さに俺は目を奪われてしまった。 「す……げぇ…!!」 思わず声をあげると、男は俺の方を見た。 「あ、ごめ…俺、君と同じ高校に通う予定の松永って言うんだけど!」 「別に聞いてない」 「あ、だよな…えと、すげぇな!その、投球!」 「…どうも」 「入学したらやっぱ野球部入んの?俺も野球すげぇ好きで…」 「野球部には入らない」 「え…」 「それに俺は、野球嫌いだ」 そう言うと、男はボールをその場に投げ捨て俺の前から去っていった。 それが、藤木秋と俺の出会いだった。
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