124人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、あなたがどんなにこいつを好きでも、気持ちを無視するようなやり方はしないでもらいたい」
「斎…」
斎を見上げる。
その真摯な眼差しに、泣いてしまいそうになった。
そうだ、斎は嘘なんてつける人間じゃない。
彼女という特別な存在でなくても、私を大切にしてくれていることは、紛れもない真実なんだ。
私は泣くのを堪えるように、斎の手をきゅっと握り返す。
「…わかりました。僕も、香月さんの気持ちを無視する気なんてありません」
門倉君がそう言うと、斎は小さく頷いた。
そして、今度こそ立ち去ろうとした時、またもや門倉君に呼び止められる。
「でももし、香月さんの気持ちを無視するようなことをしたら?」
その問いに、斎はゾッとするような鋭利な視線を門倉君に向けた。
そんな斎を見て、門倉君の顔色が変わる。
「それは自分で考えるんだな」
「…」
呆然と立ち竦む門倉君をその場に残し、斎は私の手を引いて、急ぎ足で立ち去った。
私は斎のスピードに遅れないようにするだけで精一杯で、息を切らしながら斎を追いかける。
最初のコメントを投稿しよう!