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「斎…ちょっと…待って…」
咳をしながら訴える私に気付き、斎は足を止めた。
私は肩で息をしながら辺りを見渡すと、そこは境内から少し離れた場所だった。
明かりはかろうじて届くくらいで、足元などは暗くてよく見えない。
「…ごめん、斎」
謝ると、斎は少し乱暴に私を抱き寄せた。
「急にいなくなるな」
「…うん」
掠れた声を聞いて、斎が死ぬほど心配してくれたことを知る。
さっきまで一緒にいたのに急に姿が見えなくなれば、何事かと心配になるだろう。
やむを得ない事情があったにしろ、今回は全面的に私が悪い。
「心配させて…ごめんなさい」
しゅんとしてもう一度謝ると、抱き締める腕に力がこもった。
「いなくなるだけじゃなく、他の…」
「…斎?」
「いや」
斎は頭を振ると、腕を解き、私の頭を軽く小突く。
「あまり心配させるな」
「うん」
私が頷くと、斎はやっと表情を和らげ、再度私の手を取った。
「戻るぞ」
「…うん」
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