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ふわっ、とぬるい風が吹いた。もしかして、扇いでくれてる?
「…気持ちは嬉しいけど課長が疲れるから、止めて下さい」
「男なら当たり前の事をしているだけだ」
直人ならこんな時、自分だけ涼もうとするだろう。初めて課長を格好良いと思った。
「…ありがとうございます。でも無理しないで下さい。課長が死んだら五月さんに謝りきれないから」
「縁起の悪いことを言うなよ。死なないよ。明日の朝までの辛抱だ」
そよ風に湿った肌を撫でられながら、彼を呼ぶ。
「課長?」
「ん?」
「結婚したら、すぐ子供欲しいですか?」
「何を唐突に。そうだな、俺も五月も若くないからそう遠い話じゃないだろうな」
「二人の子供ならきっと……可愛い……子が…」
意識が遠くなる。しっかりしろと声を掛ける課長の手も、やがて止まった。パサっと、封筒の落ちた音を最後に、声も音も闇の中に消えた。
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