第1話 【妖怪《ようかい》 瀬坊主《せぼうず》】

10/27
前へ
/141ページ
次へ
    「あなたは、心に闇を抱えています。体にもふつふつと湧き出ている」 「なッ、なにを」 変な意味じゃありません───と言って、静季は小さい”照魔境(しょうまきょう)”を取り出した。 「これは、魔を映す(かがみ)。あなたには妖気がまとわりついています」 なにかに、(さわ)ったんですね。 鏡には、昌平のまわりを、ごわりと黒い(もや)がほだされていた。 しばらく焔を見つめ、 「これも(ほとけ)御導(おみちび)きか」 と云った。 ◆   ◆   ◆ 変死(かわりじに)───月弥が聞き返した。 「あァ。このところ、わが藩のまわりで、(くらい)の高い者たちがつぎつぎと殺されているのだ。おれら徒士はすぐさま身辺警護(しんぺんけいご)を委任されていた」 「で、どんな野郎だった」 「坊主だ。錫杖がじゃらりと鳴った瞬間、目の前にやつがあらわれ、気が付いたころには地面に突っ伏していた」 「目を覚ますと、仏になってたんだな」 「あァ、なぜか(ころも)はずぶ()れで、顔は(あお)く、口には、貝が詰め込まれて」 貝ッ? 「そりゃ面白ぇ」 月弥がにたりと不気味に笑った。 「なにが面白いものか。おれらは三箇月の謹慎(きんしん)を食らい、小右衛門はみずからの非力(ひりき)(なげ)いていた」 錫杖。 坊主。 貝。 北條は、腕を組んでいた。  
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加