第5話 【雨恋慕峠《あまれんぼとうげ》・ぶるぶる】

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    しとしと─── (あめ)()っていた。 深く(いき)()うと、(はい)へあたらしい空気がはいるのがわかる。 それにしても気怠(けだる)い。 どうにも、このようすでは気が滅入(めい)るばかりだ。 男は、ひとりうつむきながら、(かさ)をさし、(とうげ)をくだっていた。 (くるま)がガス(けつ)し、二進(にっち)三進(さっち)もいかなくなったのだ。 「ったく、いまどき携帯のつながらない場所なんてあんのかよ。テンションさがるなァ」 なんだか、妙に寒気(さむけ)がする。 たしかに(あき)(むか)えた(そら)ではあるが、 どんよりとした雲が、空を(おお)いつくしている。 涼しげな風を運んでくれてもよいはずなのに。 舗装(ほそう)されているとはいえ、車は一台(いちだい)も通らない。 そのため、だれかに助けを求めることもできない。 すると、(くろ)いトンネルに差し掛かった。 トンネルの奥の闇はとても暗く、じめっとしていた。 しかし、ここを通り抜けねば、なにもできない。 しばらく歩いていると、すべてが(やみ)の空間に閉じ込められた。 (ひかり)のひとつもない。 男は、たえかねて、 ぶるッ──とからだを(ふる)わせた。 全身の神経が、硬直(こうちょく)した。 「・・・?」 男は、違和感(いわかん)を覚える。 背後に、なにかいるのを(さと)ったのだ。 おそるおそる、男は、うしろを振り向いた。 ───やっと、見つけたわ。 男は、叫びながら、坂道をころころと転がっていった。  
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