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しとしと───
雨が降っていた。
深く息を吸うと、肺へあたらしい空気がはいるのがわかる。
それにしても気怠い。
どうにも、このようすでは気が滅入るばかりだ。
男は、ひとりうつむきながら、傘をさし、峠をくだっていた。
車がガス欠し、二進も三進もいかなくなったのだ。
「ったく、いまどき携帯のつながらない場所なんてあんのかよ。テンションさがるなァ」
なんだか、妙に寒気がする。
たしかに秋を迎えた空ではあるが、
どんよりとした雲が、空を覆いつくしている。
涼しげな風を運んでくれてもよいはずなのに。
舗装されているとはいえ、車は一台も通らない。
そのため、だれかに助けを求めることもできない。
すると、黒いトンネルに差し掛かった。
トンネルの奥の闇はとても暗く、じめっとしていた。
しかし、ここを通り抜けねば、なにもできない。
しばらく歩いていると、すべてが闇の空間に閉じ込められた。
光のひとつもない。
男は、たえかねて、
ぶるッ──とからだを震わせた。
全身の神経が、硬直した。
「・・・?」
男は、違和感を覚える。
背後に、なにかいるのを悟ったのだ。
おそるおそる、男は、うしろを振り向いた。
───やっと、見つけたわ。
男は、叫びながら、坂道をころころと転がっていった。
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