第1話 【妖怪《ようかい》 瀬坊主《せぼうず》】

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    「ここが現場だ」 なんてことのない港町の一角。 ざざ、ざざ、 と、遠くで波の()がさざめく。 「しずかですね」 「まるで妖怪なんてでなさそうですが」 「貞吉、下、見て」 羅巌にうながされ、足元に視線を(すべ)らせた。 「貝───」 「かすかだが、妖気が漂っている」 「まちがいない。昨夜もおそらく何者かが襲われたんだ」 「昌平、下手人に心当たりは?」 月弥が、どこかから盗み出したイカの干物(ひもの)をほおばりながら言った。 「あるわけがなかろう、”あやかし”に知り合いなんぞおるか」 「みょうちきりんだと思わねぇか」 「なにがだ」 「なぜ、位の高い者ばかりを?」 「それがわかれば」 「高位な者についてくるのは、汚職(おしょく)賄賂(しゅうわい)、闇取引」 「あげだしたらきりがありませんね」 「勝手ぬかすな。すべての政治家がすべて悪いわけじゃない。本気で国を変えたい奴もおるんじゃ。現実的に、どうしても経済をまわすためには、金をまわせる施策(せさく)をせにゃならんのだ」 「あんたらに───人道(じんどう)って言葉はねぇのかよ」 「ぬう。貴様らなんぞ、息子がおれば、 すぐにでものしてやるのに」 「将監さま。『竹士郎(たけしろう)』は元気でやっとりますか」 『尾張竹士郎(おわりたけしろう)』───昌平とは、同期の藩士(はんし)である。 「あやつは───消えた」 「なんですって?」 将監は黙った。  
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