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「ここが現場だ」
なんてことのない港町の一角。
ざざ、ざざ、
と、遠くで波の音がさざめく。
「しずかですね」
「まるで妖怪なんてでなさそうですが」
「貞吉、下、見て」
羅巌にうながされ、足元に視線を滑らせた。
「貝───」
「かすかだが、妖気が漂っている」
「まちがいない。昨夜もおそらく何者かが襲われたんだ」
「昌平、下手人に心当たりは?」
月弥が、どこかから盗み出したイカの干物をほおばりながら言った。
「あるわけがなかろう、”あやかし”に知り合いなんぞおるか」
「みょうちきりんだと思わねぇか」
「なにがだ」
「なぜ、位の高い者ばかりを?」
「それがわかれば」
「高位な者についてくるのは、汚職、賄賂、闇取引」
「あげだしたらきりがありませんね」
「勝手ぬかすな。すべての政治家がすべて悪いわけじゃない。本気で国を変えたい奴もおるんじゃ。現実的に、どうしても経済をまわすためには、金をまわせる施策をせにゃならんのだ」
「あんたらに───人道って言葉はねぇのかよ」
「ぬう。貴様らなんぞ、息子がおれば、
すぐにでものしてやるのに」
「将監さま。『竹士郎』は元気でやっとりますか」
『尾張竹士郎』───昌平とは、同期の藩士である。
「あやつは───消えた」
「なんですって?」
将監は黙った。
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