第1話 【妖怪《ようかい》 瀬坊主《せぼうず》】

20/27

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
    「とにかく──オメェらここにいろ。絶対ェくるんじゃねぇぞ!」 ばちりと、襖が閉じた。 その世界は、ちいさな暗がりがぽつりと残っているだけだった。 ◆   ◆   ◆ ふたたび月弥たちは、長屋にあらわれた。 月弥の瞳はまっすぐと、なにかを見つめている。 形容しがたい感情が、そこにあったのだ。 北條が、懐から一枚の(ふだ)御髪(おぐし)を取り出した。 (じゅ)を唱えると、白い煙を上げ、『尾張』があらわれた。 "式神(しきがみ)"である。 「臭いをかぎつけすぐにでもやってくる」 「そうそう簡単にくるとも思えん」 「絶対、来る」 羅巌の予想は、意外と当たることが多い。 しばらくすると、(あわ)敷波(しきなみ)にまぎれて、 どこからともなく、怒号(どごう)のような声が聞こえた。 乾坤堂たちは、声のするほうへ向かった。 岸部(きしべ)仁王立(におうだ)ちした、 昌平のすがただった。 「竹士郎!でてこい!この”臆病者(おくびょうもの)”が」 昌平は叫んだ。  
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加