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◆ ◆ ◆
「北條どの、竹士郎を縛って、なにを?」
昌平が、柱にからだを縛られた坊主を見ながら言った。
「なんてことない───”瀬坊主”の正体を暴く」
「正体?!」
「こいつァ、あやかしになったんじゃねぇ」
───”取り憑かれた”んだよ。
月弥が、七輪に鯵を乗せ、炭火で火を起こした。
「この時期ァ、鯵は最高だな。やっぱ塩焼きか」
「塩焼き塩焼き!」
羅巌は、魚が大好物である。
ぱちぱちと、ちいさく火が爆ぜる音と、鯵の豊かな風味が、風に乗って鼻を唸らせた。
「あの、月弥どの。竹士郎があやかしに取り憑かれたのと、その焼いている鯵と、なにか関係があるのか?」
月弥は、答えない。
ただ鯵の煙を眺めながら、不気味に微笑んでいる。
すると、においをくんくんしながら、竹士郎が起きた。
びぇぇっ!びぇえぇっ……びゃぁああぁッ。
まるで人とは思えない鳴き声である。
「おーおー、そういきりたつな。どうだ、この鯵、うまそぉだろ」
鯵を裏返す。じゅうという香ばしい音が、耳を転がした。
瀬坊主は、目をぎょろり剥きながら、口をなますのごとくがばりと開け、よだれを垂らす。
ぱち。ぱちぱち。ぱち。
ぱち。ぱちぱち。ぱち。
見ている誰もが、その色の良くなった鯵を眺め、唾をごくりと飲み込んだ。
宵に見る鯵は少々重いが、若い乾坤堂や昌平には、深夜のカップ焼きそばとマヨネーズ───いや、昼間のステーキライス付きほどの威力がある。
「そォら、良い香りだァ」
しゃきんッ!と月弥は、うちわを取り出した。
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