第1話 【妖怪《ようかい》 瀬坊主《せぼうず》】

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    ぱたぱたぱた。 ぱたぱたぱた。 月弥は、瀬坊主に向かって、その煙を送り込んだ。 瀬坊主は(もだ)えに(もだ)えた。 なんども首を左右に振らせながら、威嚇(いかく)とも怒りともとれる顔色(かおいろ)で、月弥たちに食って掛かろうとしている。 というよりは、鯵のほうに気がいってるのかもしぬ。 全身をばたつかせ、ぎゃぉぉぉと叫ぶ。 すると、瀬坊主の口のなかから、ぐろろろろと、気体(きたい)が出てきた。瀬坊主は白目になり、全身を痙攣(けいれん)させた。 「た、竹士郎ッ」 「でてきたぞッ」 気体は、ひとつの(けもの)のかたちになると、そのすがたをあらわにした。 それは全長1メートルはあるかという── 『大獺(オオカワウソ)』だった。 「こいつが瀬坊主の正体」 「竹士郎どののからだに入って操っておったのだ」 逃げるッ───羅巌が叫んだ。 カワウソは、七輪の(あみ)の上に乗った鯵をくわえ、びょんと前進する。 一陣。光。一線。 「照魔鏡(しょうまきょう)!!」 神気に満ちた光線が、カワウソの目を潰した。 「静季ッ」 月弥は瞠目(どうもく)した。 (かげ)。がごんという鈍い音。 どたり───影が倒れる。 カワウソがその影に阻まれ、腕に食らいついていた。 「『尾張』どのッ」 「こんの……バケモノッ」 本物の『尾張』は、眉に渓谷(けいこく)(ともな)っている。 「今じゃッ!!」  
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