第1話 【妖怪《ようかい》 瀬坊主《せぼうず》】

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    「あの樹に()いてた妖気(ようき)は、あの依頼主の血筋(ちすじ)を憎む(むすめ)だ。だよな、静季」 「ええ。奴らの謀略(ぼうりゃく)にはめられ、土地を追われ、一家は()え死にし、残ったのは娘とその妹」 「なんとか助けてもらおうと、直談判(じかだんぱん)した一家の娘は、ついには奴らに殺され、あの樹の下の土に埋められた」 「だから毎夜、あの樹、血の涙、ながした」 ───だからあいつらのかわりに俺らが天誅(てんちゅう)を降した。文句あっか。 「いや、同情はしますよ。でも!われわれの依頼主は、あくまであの製材工場の社長ですよ!金をもらっている以上、あいつらのいうとおり」 「金なりゃ言いなりにになるようなとこなら、その辺のクズ下請(したうけ)に頼め」 「われらは乾坤堂だ。ただの退治屋じゃない」 「貞吉さん、葬られた闇に光を当てることが、私たちの仕事だと思うのですが] 「いや、静季さんのいうこともわかりますが、結果的に彼女は」 「成仏(じょうぶつ)したよ」 え?───と貞吉は言った。 「おぬしがボッコボコにされとるあいだにな」 「なんですってぇぇぇええ!!」 「北條が見つけた一家の”墓土”と、人形(ひとがた)を使い、彼らの想いを彼女に伝えた」 ───恨みを抱え、この世にとどまることの(あさ)ましさに気が付いたのさ。 「最期(さいご)にあいつは、涙を流して()っちまったぜ」 浅ましい血なんかじゃねぇ、”希望(きぼう)(なみだ)”をな。 「───そ、そうなんですか。あ、なんだぁ、じゃ僕は・・・」 貞吉は、なぜか心が軽くなり、おおきく一息ついた。 「殴られた甲斐(かい)、あった」 うしろから、羅巖が肩をぽんと叩いた。   
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