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数秒、間を置き、
「いっっッてぇぇえええぇぇええええ!!!!!」
絶叫が、朝焼けにこだました。
◆ ◆ ◆
それからしばらく歩くと、漁港に出た。
そこそこ発展しているようで、市場もある。
「おかしいな。ここは漁行が盛んで、日々、血眼になって魚の取引がされ、地元にかぎらず、各国の大名に奉納せし新鮮な魚が、ひっきりなしに捌かれておることで有名だが」
人っ子ひとりいない。
がらんと、していた。
「なにか、あったのでしょうか」
「関係のねぇこった静季。はやく帰ぇるぞ」
「あ、あれ、あそこに人が」
貞吉が、指差すほうには、岩礁にひとりたたずむ男がいた。
だらけた着物をまとう浪人のような恰好だった。
凝らすと、男のようすがなにかへんだ。
頬は痩せこけ、三白眼。
生気がなく、ただ波打つ岩礁の真下をのぞくばかり。
「まさか、あのひと」
貞吉の厭な予感が、的中した。
男は、ふらっと、身を投げたのだ。
「わ、わわわわわわ!!落ちたっ!落ちましたよ!!」
月弥はふたたび、耳を中指でふさいだ。
「小右衛門ッ!!」
と、叫ぶ声音がしたかと思うと、顕現した男が海へ飛び込んだ。
しかし、ふたりの男はもがくばかりだった。
「土左衛門サン拝むのは真平御免だよ」
「悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!月弥さんッ」
貞吉はすぐさま、男たちのほうへ行った。
「おいやめろッ!」
めずらしく月弥が怒鳴った。
しかし、貞吉の耳には届かず、海へ飛び込んだ。
「やっちまったよあいつ」
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