第1話 【妖怪《ようかい》 瀬坊主《せぼうず》】

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    思いのほか、底が深い。 地に着かぬ恐怖に取り付かれた男たちは、ばしゃばしゃと飛沫をあげていた。 「服着たまま飛び込む奴がどこにいるよ」 「あそこ」 羅巖が、男たちを指差した。 「仕方ない」 北條が(かすり)単衣(ひとえ)(はかま)を脱ぎ、 トレードマークの黒縁メガネをはずし、海へ飛び込んだ。 ◆   ◆   ◆ 焔火(えんか)に染まる(まき)が、ぱちりと鳴いた。 (だいだい)のともしびが、ゆらゆら揺れている。 囲炉裏(いろり)を囲み、多種多様の影がうごめいていた。 「仕方ないでしょう、体が勝手に動いたんですから」 貞吉は、部屋の物干し竿(ざお)に着物を干し、口をとがらせた。 「それでどうなった?死にかけたろ」 「命を粗末(そまつ)にするってのは、向こう見ずのことをいう」 「闇鬼(やみおに)のときもそうだ。()き違えんな」 「そんな!僕は決して」 「わかってましたよ。貞吉さんは、そんなつもりじゃなかったんです」 静季が、お茶を汲み始めた。 「ただ助けたい、命を粗末にする人間を見たくない。失いたくない。そうおもわれたんですよね?」 ───私は、ご立派だと思います。 静季は、貞吉の足元に茶を置き、そっと手を添えた。  
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