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墨色の闇。
不安定な月がひとつ。
ざささ、ざささ、ざささ。
叢を歩く音がよっつあった。
ざざ、ざざ、ざざ。
「弱ったなァ。こりゃあお手上げだぁ」
「えーっ、どうしてくれんのよ!どうにかしてよ」
黒影がふたつ。闇のなかに取り残されていた。
「どうしようもできねぇんだよ、こんな真っ暗道じゃ」
「お腹すいたぁー」
若いカップルのようだ。
「食料も底ついたし、これ以上先に進んだらキケンだ。
ここいらで野宿するしか」
「アンタ馬鹿ァ!?こんなところで野宿なんかしたら」
「火を焚けば安心だ。ライターも持ってるし」
「んもーっ」
「ところでよ、知ってるか?」
「なによ」
「この山──とてつもねぇ“バケモノ”が棲んでるんだって」
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