第4話 【咆哮《ほうこう》 赤狒々《あかひひ》の山《やま》】

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    「やめて」 男はライターを着火(ちゃっか)し、自分の顔に近づける。 「それは、身の丈3メートルはあろうかっつう『大猿(おおざる)』でよ。 からだは()のように真っ赤で、 虎のようなキバと大鎌(おおがま)のようなツメをたずさえ、 一度出会っちまったら、身動きできねぇままに()()きに」 「やめてっていってんでしょ!!」 「ははは、ま、目撃(もくげき)したヤツもいたらしいが、 ほんとのことはどうだがわからねぇし、第一(だいいち)そんなバカでかいサルが、 この世の中にいるわけが」 嗷嗷嗷(おおお)── どこかで(けもの)が鳴いた── ふたりは、お互い抱き合った。 それから、何度か、 嗷嗷(おお)嗷嗷(おお)、 と鳴いた。 「ねえ、ここやだ!帰ろッ」 「帰れねぇからここにいるんだろッ だ、大丈夫だ、声は遠いからこっちまでこねぇよ」 刹那(せつな)、 女が蒼褪(あおざ)めた。 「おい、どうした」 女は答えない。 ただじっと、男のうしろを瞠目(どうもく)していた。 男は── ゆっくりと、 ふりかえる。 ふたりは──()()()いた。 それは、夜闇(よやみ)に似つかわしくない赤黒(あかぐろ)い、 (おおき)きな(カタマリ)(するど)眼光(がんこう)が、ぎらり光る。 ぐわッ── 塊が、とびかかった。  
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