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「やめて」
男はライターを着火し、自分の顔に近づける。
「それは、身の丈3メートルはあろうかっつう『大猿』でよ。
からだは血のように真っ赤で、
虎のようなキバと大鎌のようなツメをたずさえ、
一度出会っちまったら、身動きできねぇままに八つ裂きに」
「やめてっていってんでしょ!!」
「ははは、ま、目撃したヤツもいたらしいが、
ほんとのことはどうだがわからねぇし、第一そんなバカでかいサルが、
この世の中にいるわけが」
嗷嗷嗷──
どこかで獣が鳴いた──
ふたりは、お互い抱き合った。
それから、何度か、
嗷嗷、
嗷嗷、
と鳴いた。
「ねえ、ここやだ!帰ろッ」
「帰れねぇからここにいるんだろッ
だ、大丈夫だ、声は遠いからこっちまでこねぇよ」
刹那、
女が蒼褪めた。
「おい、どうした」
女は答えない。
ただじっと、男のうしろを瞠目していた。
男は──
ゆっくりと、
ふりかえる。
ふたりは──血の気が引いた。
それは、夜闇に似つかわしくない赤黒い、
巨きな塊。鋭い眼光が、ぎらり光る。
ぐわッ──
塊が、とびかかった。
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