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◆ ◆ ◆
断る───北條が腕を組んだ。
「そんなこと言わねぇで旦那ァ」
『ムジナ』が両手をあわせて平伏した。
ムジナは、茶毛で全身を覆った人を化かすのが得意な妖怪である。
「都から来たそらえれェ学者サンらしいんだ。
もし発掘に成功したら、日本永劫の礎になるかもしれねぇんでさァ」
「古臭い言葉を並べるな」
「ねね、旦那ってばァ」
ムジナと北條の関係はなんてことはない。
山で野垂れ死にしそうになっていたムジナを。北條が助けただけのことだ。
ムジナはそれを恩義に感じ、それからというもの、
なにかとつきまとうようになったという。
がらりと戸が開き、買い物袋をさげた静季が帰ってきた。
「ただいま!あら、ムジナさん!」
「どォォも静季サン!今日もあいかわらずおキレイで」
「ま、お上手ですね!いま麦茶いれますね」
「あ、気を遣わんで。オラァ、北條さんに頼みごとがあってね」
「あら、どんなこと?」
「聞くほどのことでもない、さっさと帰れ」
「そんな、お願いしますよ旦那ァ」
「うるさいッ」
どんと、床をたたき、北條は机に戻り、書き物をし始めた。
しゅんとするムジナに、静季が茶を出した。
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