第4話 【咆哮《ほうこう》 赤狒々《あかひひ》の山《やま》】

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    ◆   ◆   ◆ (ことわ)る───北條(ほうじょう)(うで)を組んだ。 「そんなこと言わねぇで旦那(だんな)ァ」 『ムジナ』が両手をあわせて平伏(へいふく)した。 ムジナは、茶毛で全身を(おお)った人を化かすのが得意な妖怪(ようかい)である。 「(みやこ)から来たそらえれェ学者(がくしゃ)サンらしいんだ。 もし発掘(はっくつ)に成功したら、日本永劫(ひのもとえいごう)(いしずえ)になるかもしれねぇんでさァ」 「古臭い言葉を並べるな」 「ねね、旦那ってばァ」 ムジナと北條の関係はなんてことはない。 山で野垂(のた)()にしそうになっていたムジナを。北條が助けただけのことだ。 ムジナはそれを恩義(おんぎ)に感じ、それからというもの、 なにかとつきまとうようになったという。 がらりと戸が開き、買い物袋をさげた静季(しずき)が帰ってきた。 「ただいま!あら、ムジナさん!」 「どォォも静季サン!今日もあいかわらずおキレイで」 「ま、お上手ですね!いま麦茶いれますね」 「あ、気を遣わんで。オラァ、北條さんに頼みごとがあってね」 「あら、どんなこと?」 「聞くほどのことでもない、さっさと帰れ」 「そんな、お願いしますよ旦那ァ」 「うるさいッ」 どんと、床をたたき、北條は机に戻り、書き物をし始めた。 しゅんとするムジナに、静季が茶を出した。  
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