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見つめる静季。
陰りのなかに閏う瞳を見つけ、貞吉の頬が赤らんだ。
「でも───」
バカですよね!!静季が微笑んだ。
貞吉はうしろにひっくりかえった。
「意外ときっつ」
月弥が苦笑する。
「しかし、静季のいうことも一理ある。あと二人、そのバカがいるのだからな」
そこには、横に伏している小右衛門と、
その名を発した男が上半身裸で座していた。
二人とも筋骨隆々、精悍を絵にかいたような男たちだった。
「済まない。助けていただきなんと礼をしたらよいか」
若く、凛々しさが顔に滲みでている。
しかし、顔色はすぐれない。
「おまえ、武士か」
「そうだ。申し遅れたが、おれは松代真田守家中」
───『近藤昌平』だ。
「お仲間、なにしたんだい」
月弥に瞳が、鋭く光った。
男は答えなかった。
「どうせお上にタテついて死にたくなったんだろ」
違うッ───男は床を拳で叩いた。
「じゃあなんだ?」
それは云えぬ───昌平は頭を垂れた。
「彼の尊厳を愚弄することになるからだ」
「自決する奴に、尊厳するほどの価値あるのか?」
「やめろ月弥。事情があるんだろう」
「私たちでよかったら、話していただけません?」
「しかし───」
ぱちぱちと、火の粉が昌平の頬をかすめる。
鈍い闇をまとう瞳の奥が沈んだ。
「私たち、妖怪退治を生業にしているんです」
静季が、昌平の足元に茶を置いた。
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